ニ千と幾百か昔。
このシエルクルールと呼ばれる世界では、人はエルフや魔族、獣人といった種族と共存していた。

 

世界が病み、その負のオーラは世界を覆っていった。負から生まれ出でし異形、彼らは実態を得る為に他の種に「寄生」をした。それが魔族である。
世界は徐々に負廃(ふはい)し、そして「世界の意思・白竜」はその負に侵された部分を切り捨てることで何とか自我を保っていた。
白竜の目付けでもあり、増え続ける負を吸収し浄化していた「暗黒竜」という存在があった。だが結果、彼女は負の発作に暴れ狂うこととなり「魔王」として恐れられた。それでも、彼女は浄化を続けた。

 

ある日、一人の青年が国王の命を受け、暗黒竜討伐に乗り出した。しかし彼は知ってしまったのだ。暗黒竜が決して、自らの意思で暴れているわけではないことを。
そうして青年は、彼女の負の一端を引き受け、永遠の眠りに付き、暗黒竜は嘆き悲しんで姿を消した。

 

その数十年の後。青年の子孫が勇者の血族とあがめられ、再び魔族討伐の任を受けることとなった。
生まれながらにして勇者にされてしまったその子孫は従者から「暗黒竜」の秘密を耳にしてしまう。そうして、その子孫もまた、青年と同じ道を辿ることとなるのである。
世界の破滅に気付き、それを危惧するものたちは、このままではいけないと、歩みを始めた。
彼らはそれぞれの道に悩み、迷い、だが世界の負をすべての人々が少しずつ負担することを選んだ。
そうして、人以外のものが消えたのである。


だが、シエルクルール暦2656年現在、そんなことを信じるものはいない。
そんなものが存在するのはゲームと童話の中だけだ。
それは彼らがそこにいたという物的証拠が全く存在しないからである。
彼らのことは「未確認生物」や「蛮族を模したもの」と曲解され、時には「伝説」として「おとぎ話」としてのみ語り継がれているのである。