青のシナリオ:プロローグ

 


かつてその世界の「負」を一身に受けとめたという聖王。
一時は収束をみせたが、とめどなく溢れる「負」はついには聖王をも壊してしまった。
そして聖王は魔王となり、世界は滅びの一途をたどる事となる。
しかし聖王の力を継ぐ幾本かの「柱」は世界を支え、「負」を浄化していったのである。
人々は彼らを「勇者」と呼んだ。

 

―――シエルクルール全土に伝わる、古くからのおとぎ話の一つである。

 

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 「ああもう、またそのお話?もう飽きたなぁ!」
 後ろ手に組み、プラチナブロンドのロングヘアーに大きなリボンと、アイスブルーのエプロンドレスが大げさに左右に揺れている。これは少女の機嫌が悪いときのお決まりの動作だ。
 「そう言われてもな、アズ。俺は童話なんてそれくらいしか知らないし、天才少女様のお気に召すようなプログラム理論の話ももう底を尽きたんだ、勘弁してくれ」
 いつものやり取りなのだろう。30代ほどの白衣の男の方は額にしわを寄せることもなく少女を適当にあしらっている。
 「つまんないなー。新しいゲームでも作ってくれればいいのに!”そうごうぷろでゅーさー”さん?」
 「無理言わないで。ここの設備を維持するだけで精一杯なのよ?『奴等』に気が付かれないよう偽装潜伏するだけでも気を使うんだから」
 男をフォローしてのことか、ノースリーブのニットの女性がため息混じりに少女に言葉を吐き捨てた。
 「ルインには聞いてない!ねー、チカヤ、ちょっと外いってくるね!」
 「あ、おい、待て!夜とはいえまた不用意に外に行くと……!っ!!くそ!この1時間のプログラム作業が無駄になったじゃネーか!!」
 駆け出す少女を止めようと慌てて椅子から立ち上がり、その勢いでコンピューターらしきものに繋がったコードを抜いてしまったようだ。
 「はぁ。これだから有線っていう過去の産物はめんどくさいわね。もうちょっと便利にしといてよ、チカヤ。行って来る。」
 頭を抱えている研究者の男に"お前はいいから"といわんばかりのあきれと軽蔑の混ざったまなざしを向けて、いつの間にドアまで移動していたのかルインと呼ばれた娘が少女を追う。
 「……どっちのお姫様も無茶言ってくれる。似た者同士、もう少し仲良くしてくれりゃあ俺の気苦労もちったあ減るんだが。」
 やれやれと肩をすくめる男の顔にはまんざらでもなさそうな笑みが浮かんでいる。外を入念に警戒して、錆びた重いドアを閉めると、やはりいつものことなのか気に留めることもなくチカヤは再び画面に向かうのだった。

 

 少女は砂の上をバネのように駆け跳ねて行く。まるでウサギのように。否、ウサギそのものなのだ。頭からは髪と同じ色の、綺麗なふわふわの毛をしたウサギの耳が付いている。
 揺れていたウサギの耳が不意にピンと伸びた。
 「やっぱりあんな狭い所にいるより、外の方がずっと楽し……ん?」

 

 ◇
 
 気が付けば見知らぬ街にいた。電飾が光り輝き、人々はにぎやかにそれぞれを過ごしている。ビル群があたりを覆っている。電気街……とでも言うのだろうか。スクールのテキストでいつしか見た記憶がある。
 「フオンブンシ、カクニン、ホカクシマス、テイコウジハ、パージ、シマス」
 警備システムだろう。何かおかしなことを言っているように聞こえるのは……。
 ―――ゴウッ!!!
 黒光りした重厚なアームがとんでもない勢いで向こうの地面から伸びてくる。間違いなく、標的は、自分、だ!!!
 危機の察知と同時に、本能的に一目散に駆け出した。ガァン!という音とともに、地面にはアームの形に穴が開いたが、すぐに電子回路で穴がうまる。
 密入国ということだろうか?……にしてもいきなり捕獲だのなんだのと、自分が何をしたというのか。それに明らかに捕獲というレベルの勢いではなかった。あのままアームが当たっていれば大怪我程度ではすまないだろう。
 ―――っと!第二波を皮一枚でかわす。他の人を的確に避け、自分だけを間違いなく狙ってくる。
 一瞬壊すことも考えたが状況がわからない以上、下手をすれば間違いなく犯罪者に仕立て上げられてしまうだろう。やむを得ず振り切ることにした。

 そうして数十分、街を離れてもまだアームは追ってくる。あたりを見渡せば砂ばかり。口の中がちりちりする。
 小一時間、まるで砂漠のような一帯を当てもなく彷徨った。周囲は夜の帳に包まれていて、ただでさえ見知らぬ土地なのに見通しが悪い。
 ―――ザシュッ!ザシュッ!
 砂と空を裂く音だけが響いてくる。まだ振り切れないのか。追いつかれ、数度目のアームをかわしたとき、人影が目に入った。
 「子供!?」
 こんな時間に、こんな場所で何をしているのか。いや、そんな事よりも、こいつの攻撃に巻き込んでしまったら!
 「フオンブンシ、サラニカクニン、ニンムツイカ」
 すでに巻き込んでしまっているらしい。これでは自分が逃げられてもこの子がやられてしまう。アームは弱いものを狙うかのように、標的を自分から少女に向けた。とっさに少女にタックルをしてその場は凌いだがもう後がない。戦おうにも体制を立て直している時間がない。少女を庇う様に抱え込み、死を覚悟した。
 ―――ブオン!
 アームが自分に降り注ぐ。
 ―――やられる!!!!
 ゴウゥウン!!!!!!!!!
 鈍重な音とともに、そいつは吹っ飛んだ。
 「ほらみなさい、その人がいなかったら、アズ、あんた死んでたわよ」
 息を切らすこともなく、帽子一つ乱れることもなく、平然と女性は立っていた。このか細い女性が、あのアームを倒したのだろうか?
 「別にいなくたってなんとかなったもん!」
 少女はそんなことをよそに頬をぷうと膨らませるとそっぽを向いてふて腐れている。
 「私に怒るのはいいけど、その人にお礼くらいは言えるでしょう?」
 「べべべべ別に言われなくたってわかってるもん!ありがとう!助けてくれて!私はアズリエル!えへへ、アズでいいよ!」
 それなりに素直ではあるのだろう。屈託のない笑みを浮かべてくる少女と、光の回路になって消えていくアームと、現れた女性を交互に見つめて混乱していると少女が裾を引っ張ってきた。
 「やっぱり知らない所から飛ばされてきたの?今週でもう何人目かな?よかったら、ひみつ基地においでよ!」
 唐突な言葉を投げかけられ、ますます混乱をする自分に、女性が手を差し伸べてくる。
 「突然ごめんなさい。でも、おかげでこの子、助かったわ。あなたみたいな素性の人間が集まっているシェルターがあるの。よかったら、だけどとりあえず落ち着くまで来ない?」
 「このおっかないのはルイン!おっかないけど、頭はいいから、チカヤのお手伝いしてるの!あ、えっとね、チカヤっていうのは……」
 「その話の続きは帰ってからでもできるから、ね。あいつらに場所がばれるとまずいから、少し回り道して帰るけど、ごめんね」
 アズリエルの話をさえぎって、自分にも付いてくるよう促すと急ぎ早にルインは歩きだす。

 

 ◇

 

 全く片付いていない、まるで地震のあとのような、物の散乱したシェルターに案内された。
 散らかってはいるがそれでも中は広く幾つかの部屋があって、自分も個室を部屋として割り当てられた。
 話によればここにいるのは皆、自分と同じようにあのアームに追いかけられ、ここにたどり着いた者ばかりらしい。
 このシェルターは少女アズリエルによれば通称「ひみつ基地」というらしい。もっとも、彼女の命名らしいのだが。
 ここに初めに着いたのが研究者のチカヤさんとアズリエルで、そのあとに来たのがルインさん、他の人は自分と同じように最近になってアズリエルに導かれてきたらしい。
 「えへへ、またアズの勇者様が増えたね!」
 「いいのか悪いのか、こいつが外に出るとまるで捨て犬を拾ってくるように誰かがここに来るんだよなあ」
 そうぼやいて頭を掻きながら、それでも生きていて良かった良かったと肩を叩いてくれたチカヤさんは悪い人ではなさそうだ。
 「ここに居るも、出て行くも自由だけど。あいつらに見つかったら生きて帰れないと思ったほうがいい。何か困ったことがあれば言って。多少の面倒は見るから」
 ルインさんはチカヤさんの助手的な存在らしい。二人はプログラマーやエンジニアとしてかなりその道に精通しているらしく、また、この幼いアズリエルは飛び級で大学を出たほどの天才少女なのだという。
 「君たちも元の世界から来たことに自覚があるのだろう?」
 ふと投げかけられた言葉に一瞬ピンと来なかった。が、違和感を口にする。
 「元の世界、ってどういうことなんですか?」
 あの世界が崩壊したビジョンはなんだったのだろう。ここには今、世界があって、自分は今ここに居る。
 「世界が滅ぶと同時に元と同じ世界がサルベージされるシステムを政府は用意していた。が、それがハッキングされていて、別の世界で上書きされている状態になってしまっている、と言ってわかってもらえるかどうか」
 「誰か別の人が作った世界、ということですか?」
 そもそも政府のシステムがハッキングされているなどということがあってもいいのだろうか。そんな大事なシステムのセキュリティが甘すぎるにもホドがある。
 「その話すると皆、同じ顔をするのよね。なんでハッキングされたのかって。政府は発注者、作ったのは技術屋、そういうことよ」
 ふと目をやるとソファの隣に座っていたアズリエルが、リボンを揺らして頬を膨らませている。やがて、上目遣いでこちらを見るとつぶやいた。
 「……アズの弟なの。そのシステムを作ったの」
 耳を疑った。だが、聞けばアズリエルの祖父は有名ゲーム会社グループの会長であり、秘密裏にその世界システムを応用した禁断の実世界を作り出す研究を政府と共にしていたのだと言う。
 独自の制御システムを作り上げたのはその祖父の能力を遺言から『遺産』として引き継いだアズリエルの弟ラファエルであり、アズリエルもまたその祖父の遺産を引き継いでのこの才能だと聞いて、こんな子供にその枷をつけるのはあまりに重く気の毒だと思った。
 「なんか、やだな……ズルしてるみたいで。チカヤみたいに自分の力ですごい人になりたかった」
 アズリエルのつぶやきも気にならないわけではないが、それならばその弟をどうにかすればいいのではないかとチカヤに問う。
 「それが出来るならとっくにそうしてる。どこにいるかも生きているかもわからん」
 「ラファエルは悪くない!ラファエルはいい子だもん!そんなことしない!」
 たしかに、システムを作った張本人ならばそのシステムに直接ギミックを仕掛けられるだろう。ただ、本当に彼がしたのかどうかは定かではない。アズリエルの気持ちももっともだ。
 そして、この世界はその会社のリアルMMORPG(大人数が 一度に同じサーバーにログインして,同じ空間を共有して遊ぶタイプのオンラインゲーム)のものらしい。
 チカヤさんはその会社の一員であり、このゲームの総責任者だそうだ。この世界に適応するプログラムがどこかで破損していて、自分たちのようにプログラムに感化されずに記憶を持ち越した者が存在したため、「不穏分子」として排除されるようにどこかでリプログラミングされているのではないかと彼は言う。
 「すまないな、こんな話。来たばっかりなのに」
 たはは、と軽く笑って見せてはいるが、おそらく彼の中の自責は相当重く、目の奥に落胆と悲壮の色が見え隠れするように見受けられた。それでも責任感からか、彼はこのひみつ基地からどうにか元の世界を取り戻そうとしているらしい。

 

 自分は……何が出来るのだろうか。

 

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そんなわけで、青のシナリオは、各PCさんがシェルターに厄介になったところから始まります。

NPCに聞きたいことがあれば、設定を送る際にご一緒に0話用アクションとして送って下さい。NPCが応えられることならば、ですが!

あと、青のシナリオでは「ゲームINゲーム」が発生します。具体的にはシノビガミの使命と秘密が一緒になったみたいなものです。

登録順に青シナリオ内での「役割(使命)=確実に盛り」が付与されます。けれど、その内容はPLさんには伝えられません。物語が進むにつれ、解明することもあれば、突然天の声という名の個別(リアが出た時期にDMかメッセージでお送りする予定です)ミッションが届きます。要するにPCは自分で「役割=秘密」がわからない状態です。与えられる役割は例えば「使命:勇者の盟友」みたいな感じです。

盛りはいらないよ、と言う方はそのまま無視して頂ければいいですし、気になる方はチャレンジしてみて下さい。

ちなみにミッションをすると成長ポイントは倍になります。ただし、ミッションを人(PC)に話すとマイナスポイントの修正が付きます。PL情報として相談なさるのは自由ですが、他PCさんがその情報を使った場合、情報源の方がマイナスとなりますのでご注意下さい。