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 物語の中では、かつて勇者は世界の厄災といわれた暗黒竜を許し盟友となった。
 暗黒竜は勇者がなくなった後も、その子孫を見守り続けたという。
 その子孫もまた与えられるばかりでなく、暗黒竜に友愛を返し、世界はバランスを保っていた。
 人と負の共存。
 世界が闇に蝕まれたとき、人々はどうするのだろう。
 その選択のときはすでに迫っていた。

 

 

「種の起源……ねえ」
 ネイルも肌もまるで化粧っ気のない女性がつぶやくのは、ダーウィンが書いたそれではない。純粋にこの世界の、今現在人に取り込まれている種族要素についての起源をさしている。
 ずらりと並んだ試験管の中にはありとあらゆる生物のDNAを電子化したもの【遺電子】が猶予(たゆた)っている。そのひとつを取り上げ、青白く光る中身をうつろに見ながら物思いにふけっていた。
 シエルクルール暦2656年現在、人は生まれながらにして一つの「可能性」を埋め込むことができる。多種を取り入れないのは情報量がオーバーフロウして人が壊れてしまうからだとも、その利便性と強固な能力ゆえに犯罪者が増える懸念を抱いてのことだとも言われている。
 すべては政府が決めたことだ。
「確かに何か一つでも特化した部分があれば社会に貢献できるというのは分かるけど、正直社会のために都合よくいじられてるみたいで、ホント滑稽」
 研究者であり、医師でもある彼女はあまりこの方針に賛同していないようだ。
 生まれたときから親の希望で種族を決め埋め込むもの、大人になってから本人が移植するもの、乗り換えるもの、申請さえすればその能力を1つだけ手に入れることができる。
 逆に環境でそれを手に入れられないものも存在する。捨て子であったり、僻地に住んでいるため手術を受けられないものがそれに値する。他にも『ワケあり』はあるのかも知れないが。
 彼女……リズもまた、能力を移植していない一人である。彼女は移植がなくとも自分自身の才能に恵まれ、現在の地位にある。
 医師として治療診療はもちろん、移植にも携わってきた。遺伝子分野の功績から生体についてのゲスト研究者として、この研究所に招かれているのだ。
 ……否。彼女自身はそうは思っていない。ここは彼女の『檻』なのだ。半ば強引に政府によってつれてこられたというのが正しい。もはや拉致だ。
 それに。
 種族移植していない、というのも定かではない。12かそこらの年齢のときに義父に拾われ、彼の手伝いをするうちに医師となった。
 それまでの記憶はほぼない。この世界自体が夢まぼろしのようだった。
「私も、あなたたちと同じ。自分がなんなのか、よくわからない……」
 足元に擦り寄るのは羽の生えた猫。研究サンプルにいたずらすることもなく、賢くおとなしくしているので放し飼いを許されている、彼女の相棒だ。いってしまえばこの猫も研究サンプルの一つである。実際民間ではペットへの能力移植は禁じられているのでここでの特権ともいえる。
 猫が賢いのは、人に逆らわぬようプログラムを組み込んであるからだ。同じように。彼女の中にも、政府に逆らえぬ【拘束の遺電子】が埋め込まれている。もはや犬だ。
 本来ならば、警察が犯罪者を捕らえた際に反抗を抑えるための一時的なシステムであるが、政府の守秘義務としてのこういった使い方は非人道的だと思う。だが、どれだけ叫ぼうとも政府にそれはかき消される。自分で死ぬことも許されない。
 それでも彼女が生きるのは、ほぼない記憶のうちの一つにある。黒髪のメイドと金髪のエルフの面影。彼らに何かを託されたような気がしてならないのだ。
 それを突き止めたいのだが、政府がここを出ることを許してはくれない。

 そう思っていたのがつい先日のことだった。

 

 

 砂と、岩と、瓦礫の廃墟。
 研究室がまばゆく光ったと同時に、リズはここに立っていた。
 不安感よりも、開放されたという安堵の気持ちの方が先にたった。だが、別段開放されたわけではないのかもしれない。彼らは、まだ自分のことを見張っているのかもしれないという現実に巻き戻る。
 人を、探した。しかし、見つかるのは彼女の研究所の実験体(モルモット)ばかりだ。
 数日して、避難シェルターを見つけ、どうにか食料にはありつけた。そうしてまた人を探してはここに戻って来ることを続けた。
 ある日、人の躯をはじめて見つけた。すでに亡くなっている人に対して不謹慎ではあるが、自分以外にも人が存在していたという事実には少しばかりほっとしてしまった。
 研究で、大分マヒしてしまっているのだろう。人の死体を冷静に見てしまう自分がいささか壊れていることに悲しくなる。
 なんどか、そういう場面に遭遇し、分かったことがある。彼らは、モルモットに襲われ命を落としたのだと。
 またある日、食料と救急用具を持ち、遠出をした。
 運よく別のシェルターを発見できた。人は……いるのだろうか?

 ドドドドドドドドドド!!!!

 地鳴りのような激しい音に振り向けば、合成獣(モルモット)がそこにいるではないか。ただ、慌てることはない。彼らが自分を襲うことがないと分かっているからだ。彼らは私を襲えないし、私は彼らを殺せない。そういう遺電子ルールがある。
 だが、慌てざるを得ない状況が発生した。

 

 とうとう、自分以外の生存者を見つけたのだ。

 

 

「お、おい……なんでこんなキメラとかいるんだよ…!!!ゲームでしかみたことねえぞ!!」
 慌てふためく青年は初めてモルモットと遭遇したのだろう。そして、その声に導かれるようにシェルターの中から続々と人が現れる。
 最悪だ。当然研究所のものではない彼らが、襲われない対象であるわけがないのだ。
 そして咄嗟に危険を知らせようと声を張り上げた。
「武器を!両手を前に掲げ、遺電子の命ずるままに武器をイメージして!」
 なぜそんなことを口走ったのか、はたまた自分の言葉なのかも良くわからなかった。
 彼らが、こんな言葉を信じるとも思えないし、とにかく何よりも自分が自分に戸惑っていた。
 だが、脳裏につむがれる言葉はそんな自分の意に反して―――。
「戦わなければ、キメラは執拗にあなた方を追うでしょう。息絶えるまで」
 彼らは……どうするのだろう。
 戦えぬリズは、彼らの無事を、ただただ祈り、立ち尽くすしかなかった。

 

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お待たせしてすみません。

そんなわけで、赤ですが、皆さま(PC)はもう一つのシェルターの中に居た人々になります。

時期は、荒廃の世界にきてから約半年たっていると思っていただければ。

そこに来た経緯や社会上の立場などはご自由に設定して頂いて大丈夫ですが、もろもろの関係上、リズのいた研究所の関係者の場合だけはご相談ください。

また、このシナリオに限り、はじめから武器を設定できます。どんな武器でも質量は同じです。大剣とナイフでも威力は必殺技や魔法の威力に準じます。拳が武器でもかまいません。

なお、武器がないと必殺技や魔法が出ません。ので、設定欄に武器のことも書いて下さると嬉しいです。

戦わないからいいやって方は書かなくても大丈夫ですが、生き延びるのが難しいと思われます。

リズの名前はリズだけにしました。サマーレインさんはなかったことにしてください。あと、外見もちょっとだけマイナーチェンジする予定です。

とりあえずこれはあくまでプレの初期情報なので、0話は皆さんが主軸になりますが、リズに絡みたい方は遠慮なくどうぞ。聞きたいこととかあれば是非。だってマスターのPCだからからんでくれないとさびs(以下略)。