●皇神と四大神と人々●

 

気高く強く慈愛と審判の炎の軍神。
麗しく冷静で安穏、調停者の水の竜神。
聡明で厳格、調律の風の知神。
優しく温和で平静、豊穣の土の地母神。

 

そして彼らを作りたもうし天なる皇神。

 

皇神は人々の手によって荒れた地上に秩序を与える為、四大神を使わせた。
その期待通り、神々は魔を退け、負を押さえ、人々に活力と安らぎを与える。
しかし神らはあまりに人々と密になりすぎた。
彼らは長きを過ごすと共にやがて人に感化され、人間の肩を持つようになり、皇神を欺くようになったのである。

 

皇神は、頭を抱えた。
皇神は、初めて心に闇を感じた。
皇神は……止むを得ず地上に、自らの分身を降り立たせた。

 

 

―――コールアスターにある朽ちた碑石にある文章だ。残念ながら、この続きは途絶えている。
バーナードは、持っていた古書を静かに閉じる。少しばかりだが、文字の照合などできたので満足はしている。
この本は彼の家に古くから伝わる大事な伝承文献で、図書館に寄贈していたものなのだが……バーナードが家を継いだときに戻してもらったのだ。
大半がくっついていて、読むことはできないのだが、数少ない開けるページのほとんどにこれらの神々の話が載っている。
「わわわ、それ、もしかして紙でできた本ですか?大分古そうですけど」
随分と夢中になっていたようだ。若い女性がすぐ傍に居たことにも気が付かなかった。、この古書に興味を持っているらしい。
「お嬢さんのようにお若い方がこのような場所に居るのは珍しいですね」
聞けば彼女……ウィルヘルミナは考古学の研究でこの遺跡の調査に来ているらしかった。
「っていうか、こんなドのつく田舎に人が来ること自体、めずらしいんだよねぇ~」
着崩した民族風の羽織にビーチサンダルというだらしない格好をした男がものめずらしそうに二人を見て話しかけてきた。
どうも、この遺跡の管理人らしかった。
バーナードとウィルヘルミナは律儀に電子名刺を渡すと、駄目そうな親父は
「ごめんねえ。オジサン、こういうのもってないんだわぁ~。カミ=サマっていうの。よろしく」

とあっけらかんと告げた。

「神様……ねえ」

二人は顔を見合すと、碑石とカミを交互に見比べるのであった。